排水処理装置には、排水をためて1回分ずつ処理する「バッチ式(回分式)」と、排水を流しながら連続的に処理する「連続式」の2つの運転方式があります。どちらを選ぶかによって、装置の構成・導入費用・日々の管理の手間が大きく変わるため、装置の新設や更新を検討する際には最初に決めるべきポイントです。
この記事では、凝集剤で汚れを固液分離する凝集沈殿処理を前提とし、
- バッチ式と連続式の仕組み
- それぞれのメリット・デメリット
- どうやって選ぶかの判断基準
以上について、排水処理装置メーカーの実稼働経験をもとに解説します。
【関連記事】当社ネクストリーのバッチ式(回分式)小型排水処理装置 ANシリーズ
目次
1. バッチ式(回分式)排水処理とは?

バッチ式(回分式)とは、決められた水量を「ひとまとまり(1バッチ)」としてタンクにため、1回分ずつ処理する方式です。凝集沈殿処理の場合、1バッチは次の流れで進みます。
- 原水タンクから処理タンクへ汲み上げ
- pH調整
- 凝集剤の添加
- 撹拌して凝集の反応
- 上澄水と汚泥の沈降分離
- 上澄水を排出・脱水
- 汚泥を排出・脱水
上記の流れを1つのタンクで行い、1回ごとに完結させ、何度も繰り返します。
1バッチにかかる時間は処理量や排水の性質によって変わります。当社バッチ式装置での目安は次のとおりです。
| 1バッチの処理量 | 1バッチの所要時間(目安) |
| 200L | 約17〜63分 |
| 500L | 約26〜82分 |
| 1,000L | 約31〜107分 |
※ここでの時間は「原水の汲み上げ開始」から「処理完了表示」までで、ろ過袋にたまった汚泥の脱水時間は含みません。時間が変動する主な要因としては、以下があります。
- ろ過速度
- 使用する凝集剤の数
- pH調整の有無と調整幅(pH9 → 8なら5分程度、pH12 → 8なら40分程度かかることも)
1日に処理できる回数は、この所要時間と工場の稼働時間から逆算できます。たとえば稼働8時間の工場で1,000L/バッチの装置を使う場合、1日4〜5回程度が処理可能な一つの目安になります。
【関連記事】当社ネクストリーのバッチ式(回分式)小型排水処理装置 ANシリーズ
1-1. バッチ式で使う凝集剤と処理の考え方
凝集沈殿処理で使う凝集剤は、大きく分けて以下の3種類です。国の一律排水基準が目標値となる案件では、半数以上がこの組み合わせで処理できます。
- 無機凝集剤(PAC・硫酸バンドなど)
- pH調整剤(苛性ソーダ・消石灰など)
- 高分子凝集剤(アニオン系・カチオン系など)
そして、凝集剤を選定する際は、以下の2点を重視します
- 処理水がその地域の排水基準を守れること
- 凝集剤費・人件費・設備費を含めたコストを抑えられること
原水の分析結果があれば選定はスムーズですが、ない場合はパックテスト(簡易測定)で推測し、試験します。そのうえで、水質分析を実施して基準超過している項目に合わせてアプローチを変えます。
| 超過している項目・制約 | 凝集剤でのアプローチ例 |
| SS(浮遊物質) | 各凝集剤の添加量を増やす |
| BOD・COD・ノルマルヘキサン抽出物質 | 活性炭を併用する |
| 重金属類(鉄・亜鉛・鉛など) | pH調整の工程を増やす、またはキレート剤(重金属捕集剤)を使う |
| フッ素 | 消石灰を使う |
| 劇物を使いたくない現場 | 苛性ソーダの代わりにPACやクエン酸、消石灰の代わりに消石灰で代替する |
凝集沈殿処理の構造やそれぞれの凝集剤の詳しい働きは、以下の記事で解説しています。
【関連記事】【メーカーが解説】凝集沈殿処理とは?選び方や処理フロー、導入事例を紹介
【関連記事】PAC(ポリ塩化アルミニウム)とは?特徴・メリット・使い方を解説
【関連記事】排水処理のpH調整ガイド|基本・pH調整剤・pH計・トラブル対策を詳しく紹介
【関連記事】高分子凝集剤とは?排水処理に欠かせない理由と他の凝集剤との違いを解説
1-2. 回分式活性汚泥法(SBR)との違い【別物です】
「回分式」と検索した際に見かける「回分式活性汚泥法(SBR)」は、本記事で取り上げている回分式とは根本的に異なるものです。
- 回分式: 決められた一定の水量を1つの単位として排水を処理していく「運転方式」を指す言葉
- 回分式活性汚泥法(SBR): 回分式の仕組みを利用し、微生物の働きによって有機物の分解を行う「生物処理」のひとつの手法
大枠としての「回分式」という運転方式のカテゴリーの中に、「回分式活性汚泥法」が位置付けられているという関係性になります。
2. 連続式排水処理とは?

連続式とは、排水を常時流し込みながら処理する方式です。凝集沈殿処理の場合、流れは次のようになります。
- 【原水槽】原水をためる
- 【反応槽】無機凝集剤を添加
- 【調整槽】pH調整剤を添加
- 【凝集槽】高分子凝集剤を添加
- 【沈殿槽】上澄水と汚泥を分離
- 【監視槽】上澄水を放流
- 【汚泥槽】汚泥をためる
- 【脱水機】汚泥を脱水する
上記のように、それぞれの工程ごとに専用の槽が存在し、常時処理を行います。バッチ式と違い、複数のタンクで処理を行うため、大きな水量を安定して処理し続けられるのが特徴です。
一方で、流しながら処理する構造上、途中で水質が変わっても凝集の条件をすぐには変えにくいという性質があります。
3. バッチ式と連続式のメリット・デメリット【比較表】
2つの方式の違いを一表にまとめると、次のようになります。
| 比較項目 | バッチ式 | 連続式 |
| 処理量 | 小〜中規模向き(目安:1日5 ㎥以下)。 | 中〜大規模向き(1日5 ㎥以上)。 |
| 水質の変動 | ◎ 強い(1バッチごとに凝集剤を調整できる) | △ 弱い(条件が崩れると処理不良のまま流出する) |
| 処理の確実性 | ◎ 処理を確認してから排水できる。 | ◯ 常時監視が必要。 |
| イニシャルコスト | 比較的に 抑えやすい | 大きくなりやすい |
| 設置面積 | 小さい | 大きい |
| 管理の手間 | バッチごとの操作あり(自動化の程度による) | 自動運転しやすい |
3-1. バッチ式のメリット
- 水質変動に非常に強い
1回分ごとに凝集量を調整できるため、日によって濃度や成分が変わる排水にも対応しやすいです。
たとえば、段ボール印刷工場では、インクや接着剤の混ざる2種類の排水が混ざり、日によって割合が変わります。
そんな排水でも、凝集剤投入後にpHと処理水の濁り具合を確認し、pHが低ければpH調整剤を、濁りが残っていれば高分子凝集剤を、と状況に合わせて追加することで対応できます。
- 処理水を確認してから排水できる安心感
濁りやpH、簡易水質チェックを行って問題なければ放流、NGならそのバッチだけを再処理できます。基準超過水がそのまま外部へ流出するリスクを大きく下げられます。
- 省スペース・低コスト
処理構成がシンプルなため、設備全体の設置面積を小さく抑えられます。また、処理水槽が1つで済むことからイニシャルコストも低くなる点が大きなメリットです。小規模な工場や、既設の生産ラインの隙間に排水処理スペースを確保したい現場などに向いています。
3-2. バッチ式のデメリット
- 大規模排水の処理が苦手
タンク容量と1バッチあたりの所要時間が処理能力の上限を決めるため、排水量が増えるとバッチ数が増え、処理が追いつかなくなります。
- バッチごとの操作が発生する
装置の仕様にもよりますが、手動に近い構成では、凝集剤投入・上澄水排出・汚泥排出・ろ過袋交換、といった作業に人の手が必要となります。導入コストとのバランス次第ではありますが、自動化することで作業の大半は削減可能です。
【関連記事】当社ネクストリーのバッチ式(回分式)小型排水処理装置 ANシリーズ
3-3. 連続式のメリット
- 大規模排水を安定して処理できる
連続式は常時、 排水を流しながら処理するため、1日あたりの処理量が非常に多いです。常時大量の排水が出る現場(10㎥/日以上)で採用されることが多い方式です。
- 自動運転との相性が良い
処理量が一定のため、夜間運転・24時間運転にも適しています。バッチ式のように日常運転において人手が必要な部分がないので、完全自動運転が可能です。
3-4. 連続式のデメリット
- 水質変動に弱い
あるタイミングで濃い排水が流れ込んだ場合、その瞬間は通常と同じ凝集条件で処理が進行してしまうため、処理が追いつかず濁ったままの水がそのまま流出するリスクがあります。一番の対策は最高濃度に合わせて凝集剤を多めに設定することですが、低濃度時は無駄になってしまいます。
別の方法として、濁度計・pH計などで常時監視したり、パックテストで定期的に数値をチェックするなど、すぐに処置できる体制にすることが大前提です。
- 設備が大きくなりやすく、イニシャルコストも高め
連続式は工程ごとに専用の槽が必要になるため、バッチ式と比較すると、どうしても装置規模が大きくなり、導入費用も増える傾向にあります。
4. バッチ式と連続式の選定基準
自社にはどちらが適しているのかを判断する軸は以下の3つです。順番に解説します。
- 1日あたりの排水量
- 水質の変動幅
- 費用(イニシャルコスト+ランニングコスト)
4-1. 1日あたりの排水量で選ぶ
最も大きな判断軸は排水量です。当社の実績では、次の目安で考えています。
| 1日あたりの排水量 | 方式の目安 |
| 5㎥/日以下 | バッチ式 |
| 5〜10㎥/日 | どちらも相談。処理試験や運転条件で判断 |
| 10㎥/日以上 | ほぼ連続式 |
もし自社の排水量が分からない場合は、次の方法で概算できます。
- 水道水・工業用水の検針票から、使用量を推定する
- 切削油や洗浄液などの月間使用量と希釈倍率から、使用水量を逆算する
- 排水口に10〜20Lタンクを置き、満水になるまでの時間を測り、時間当たりの流量を算出する
4-2. 水質の変動幅で選ぶ
濃度や成分が大きく変動する現場では、バッチ式が持つメリットを最大限に活かせます。
変動が大きくなりやすい例:
- 印刷業: 印刷物によってインクの色数・種類・量が変化
- 医薬・化学品製造: 製造品目やロット切り替えにより排水性質が変わる
- 手洗い洗浄を伴う金属加工・塗装・食品製造など: 作業者の手順やタイミングで濃度ムラが発生
こうした現場では、もっとも濃度が高い(厳しい条件の)排水で処理試験を行い、その条件でもバッチ式で確実に処理できるかどうかを確認することが重要です。
連続式での運用も不可能ではありませんが、想定される水質で事前に試験したり、リアルタイムでの監視体制を整えるなど、万全のトラブル対策が不可欠です。こうした準備を怠ると、担当者が日々手動で凝集量を微調整し続けることになり、現場の負担が極めて重くなってしまいます。
4-3. 費用で選ぶ(イニシャルコスト+ランニングコスト)
4-3-1. イニシャルコスト
同じ処理量で比較すると、バッチ式のほうが構成がシンプルで、設備費を抑えやすい傾向があります。
実際に、老朽化した連続式装置からバッチ式へ更新したケースで、「設備投資が約1/3に縮小できた」「設置面積が半分になった」といった事例もあります。
4-3-2. ランニングコスト
バッチ式・連続式を問わず、日常的に発生するランニングコストには以下のものがあります。
- 凝集剤費(凝集剤やpH調整剤など)
- 消耗品費(ろ過袋、ろ布の交換費用など)
- 電気代(各種ポンプ、撹拌機、脱水機の動力)
- 人件費(日々の運転管理、清掃にかかる工数)
- 産業廃棄物処理費(発生した汚泥の処分代)
ランニングコストで比較するときは、「排水1㎥あたりの処理単価」を指標にするのが分かりやすいです。単価だけで見れば、排水量が多く、まとまったロットで凝集剤を購入する連続式のほうが安くなる傾向にあります。
しかし、現場で課題となるのは、数値化しにくい手間や負担です。特に「フィルタープレスのろ布洗浄やメンテナンスが大きな負担なので、更新を機に脱水機そのものをやめたい」というご相談は、当社に何度も寄せられました。あえて脱水機を使わないというケースも少なくありません。
このように、金額比較だけでなく、管理のしやすさを含めた総合的な判断が重要となります。
5. バッチ式排水処理装置の導入事例【ANシリーズ】

当社ネクストリーのバッチ式小型排水処理装置「ANシリーズ」は、1バッチ200L〜1,000L、1日あたり最大10㎥までの排水に対応するバッチ式の凝集沈殿装置です。
対応できる排水としては、金属研磨・工事泥水・インキ・接着剤など、凝集剤で処理できる排水であれば業種を問わず導入いただけます。
【関連記事】当社ネクストリーのバッチ式(回分式)小型排水処理装置 ANシリーズ
ここからは、バッチ式の小型排水処理装置を導入した2つの例を紹介します。いずれも「連続式ありき」ではなく、自社の排水量や運用体制に合わせて方式を選び直したケースです。
5-1. 事例1:金属加工業(300L/日)— 産廃費用を50%以下に

この事例では、バレル研磨工程から出る排水をすべて産業廃棄物として外部処理しており、
- 毎月のランニングコストが高い
- 担当者の作業負担が大きい
- 劇物のpH調整剤をやめたい
という課題がありました。
そこでバッチ式小型排水処理装置を導入し、
- 劇物ではない酸剤・アルカリ剤でpH調整
- 自動運転により、担当者は凝集剤投入とろ過袋交換のみ
という運用に切り替えた結果、産廃処理費用は50%以下に削減。作業時間も最小限で済むようになりました。詳細は以下の記事で紹介しています。
【詳細記事】バレル研磨廃液の産業廃棄物費用を大幅削減
5-2. 事例2:段ボール製造業(3 ㎥/日)— 連続式からの更新で設備投資1/3に

この段ボール製造工場では、既設の連続式排水処理装置が老朽化し、更新時期を迎えていました。しかし、
- 既設と同等の連続式を入れると設備投資が高額になる
- 脱水機のろ布洗浄・交換に時間とコストがかかる
といった課題がありました。
排水量や排水性質を再評価した結果、バッチ式排水処理装置に更新。結果として、
- 当初想定の約1/3のイニシャルコスト
- 設置面積は約半分
- 使用凝集剤数は5剤→1剤へ削減
- 脱水機から自然ろ過に変更し、ランニングコスト削減・作業負荷の低減
という結果が得られました。詳細は以下の記事で紹介しています。
【詳細記事】ダンボール加工業 設備の省スペース化
6. まとめ|排水処理装置の方式選定は「妥協+運用+コスト」のバランスで
バッチ式と連続式の排水処理方式は、どちらが絶対に優れているというものではなく、「現場条件と求める運用」によって最適解が変わります。
整理すると、判断の軸は次の3点です。
1日あたりの排水量
- 5㎥/日以下: バッチ式
- 5〜10㎥/日以上: 試験結果・要望や条件で判断
- 10㎥/日以上: 連続式
水質の変動幅
- 変動が大きい: バッチ式
- 比較的一定: 連続式
総コスト(イニシャルコスト+ランニングコスト)
- 試験を行い、1㎥あたりの処理単価で比較する
ほとんどの排水は、技術的に見れば「何らかの方法で処理すること」は可能です。重要なのは、それが
- コスト的に無理がないか
- 日々の運転・管理が現場の人員で回るか
- 安全性や属人性の面で問題がないか
といった観点から、長く続けられる仕組みになっているかどうかです。
バッチ式・連続式で迷う場合は、排水の分析や凝集試験からスタートし、「技術的に可能な方式」と「実務的に運用できる方式」の両方を擦り合わせて検討することをおすすめします。
当社ネクストリーでは、バッチ式・連続式の両方を扱っており、ご要望に合わせて最適な方式をご提案しています。情報収集や計画段階であっても構いませんので、お気軽にご相談ください。