「PACって名前はよく聞くけれど、どんな薬品なのかはっきり説明できない」
「塩化アルミニウムとどう違うの?」
こうした疑問を持ちながら、何となく現場で使っている方は少なくありません。
PACは、浄水場から工場排水・生活排水の処理まで、非常に幅広い現場で使われている“代表的な水処理薬品”です。しかし、便利な薬品である一方で、使い方を誤ると処理不良や設備トラブル、安全面のリスクにもつながります。
ここでは、PACの基本的な性質から、排水処理における役割、メリット・デメリット、具体的な使用方法、注意点、さらにはPACを使わない代替薬品まで、実務に役立つ視点でわかりやすく解説します。
目次
1. PACとはどんな薬品か?
1-1. PACはポリ塩化アルミニウムという「液体凝集剤」

PACの写真
PAC(パック)は「ポリ塩化アルミニウム」という無機系の液体凝集剤というものに分類され、以下のような特徴を持っています。
- 形状:透明の液体
- pH :おおよそ4前後の酸性
- 成分:塩酸+アルミニウムに、少量の硫酸イオンを含む
- 用途:上水(飲み水)、下水、工場排水などの水処理
池や川、工場排水には目に見えないほど細かい土砂・有機物・金属・油分などさまざまな汚れが含まれています。これらをそのまま放流したり、飲み水に使用したりすることはできないため、浄水場や排水処理施設では、PACを始めとする薬品を用いて水を浄化しています。
PACは、その中でも「汚れを集めて大きな塊にし、沈みやすくする」という役割を担う薬品です。
1-2. 日本でよく使われる無機凝集剤

硫酸バンドの写真
PAC以外の無機凝集剤としては、
- PAC(ポリ塩化アルミニウム)
- 硫酸バンド(硫酸アルミニウム系の凝集剤)
が代表的です。どちらもアルミニウムを有効成分とし、水をきれいにする点は同じですが、液体としてそのまま使えるPACは、溶解の手間が要らないことから、多くの事業所で採用されています。
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2. 排水処理におけるPACの役割
2-1. 微細な汚れを「フロック」に育てる重要なステップ

「凝結」のイメージ図
排水の中には、0.001mm以下の非常に細かい粒子が多数含まれています。こうした微粒子は、水中に浮遊し続けるため、そのままでは重力で沈むことがありません。ここで活躍するのがPACです。
上の図をもとに解説すると、
- PACを排水に投入すると、アルミニウム成分が水中で反応し、プラスの電荷を持ったアルミニウム水酸化物の粒子ができます。
- これが、マイナスの電荷を持つ汚れの粒子に付着することで、互いに引き寄せ合うようになります。
- 個々の粒子がくっつき合い、目に見える大きさの団子状(基礎フロック)へ成長。
- フロックは重くなるので、沈みやすくなり、清澄水と汚泥に分離します。
このようにPACは、後工程である「沈殿」「ろ過」をスムーズに行うための“前処理薬品”として極めて重要です。PACが適切に効いていないと、後工程にある設備の能力を十分に発揮できなくなることもあります。
2-2. 「凝結」と「凝集」の違いとPACの位置づけ

「凝集」のイメージ図
水処理の現場では、似た言葉として「凝結」「凝集」がよく登場します。
- 【凝結】
- 微細な汚れに薬品が作用し、電荷が中和され、くっつきやすい状態になる段階
- PACなどの無機凝集剤の役割
- 【凝集】
- 凝結した微粒子同士がさらに集まり、大きなフロックに成長する段階
- 高分子凝集剤(ポリマー)などが担うことが多い
PACは、このうち「凝結」の部分を担当します。
浄水場を例にすると、原水にPACを投入することで、細かい土や砂、プランクトンといった汚れが「凝結」し、ひとまとまりのフロックへと育っていきます。その後、沈殿・ろ過工程によって、きれいな水が得られます。
【関連記事】凝集剤ってなんだろう?凝集処理の流れと 無機凝集剤と高分子凝集剤の使い方
3. PACと塩化アルミニウムの違い
PACとよく比較される薬品に「塩化アルミニウム」があります。どちらもアルミニウムを含む液体の薬品で、凝結作用を持つという点は共通していますが、性質は大きく異なります。
| 項目 | PAC(ポリ塩化アルミニウム) | 塩化アルミニウム |
| 主成分 | 塩酸+アルミニウム+硫酸イオン | 塩酸+アルミニウム |
| アルミ含有量 | 比較的多い | 比較的少ない |
| pH | 約4(酸性だがややマイルド) | 約2(より強い酸性) |
| 腐食性 | 塩化アルミニウムよりは少ない | 腐食性が高く、設備の材質に注意が必要 |
| 中和剤の必要量 | 少なめ | 多く必要になりやすい |
塩化アルミニウムはpHが約2と非常に強い酸性であり、中和に使用するアルカリ剤の量が多くなるほか、配管やタンク、ポンプの材質によっては腐食を大きく進行させてしまうリスクがあります。
一方、PACには少量の硫酸イオンが含まれていることが特徴で、これが凝集性能や適用できるpH範囲を広げる要因のひとつとされています。そのため、同じアルミ系の液体凝集剤であっても、多くの現場ではPACの方が「扱いやすい」「使いやすい」と評価されています。
4. PACを使うメリット・デメリット
PACは非常に一般的な凝集剤ですが、「万能」ではありません。導入・運用の際には、長所と短所の両方を理解しておくことが重要です。
4-1. PACを使うメリット
他の液体無機系凝集剤(硫酸バンド、塩化アルミニウム等)と比較したとき、PACには次のような利点があります。
- pHが比較的高く、設備への負担が小さい
- pH約4と、強酸ほどではないため、金属配管・ポンプなどの腐食性が比較的低い
- pH調整のために投入する中和剤(苛性ソーダ、消石灰など)の量を抑えやすい
- 必要添加量を削減できるケースが多い
- 同じ処理目的であれば、硫酸バンドより20~50%程度、添加量を減らせる事例もあります
- これにより、「薬品コスト」「貯蔵スペース」「運搬コスト」などをトータルで削減できる可能性があります
- 汚泥の発生量を抑えやすい
- PACはアルミ含有量が多いにもかかわらず、硫酸バンドと比較して汚泥量を少なくできるケースが多く、汚泥の脱水・運搬・処分にかかる産廃費用の削減につながります
- 液体でそのまま使えるため、取り扱いが容易
- 粉体を溶かすための溶解槽や撹拌設備が不要
- 薬注ポンプで直接注入できるので、設備構成がシンプルになる
このように、「使いやすさ」「添加量の少なさ」「汚泥量の低減」といった観点から、コストだけでなく運用上のメリットも大きい凝集剤です。
4-2. PACを使うデメリット
一方で、以下のようなデメリット・注意点もあります。
- 酸性薬品であるため、中和処理が必須
- PACを入れ続けると、排水のpHが酸性側に傾いていきます。河川などに放流する場合、日本では「pH5.8〜8.6」の範囲に収める必要があり、苛性ソーダや消石灰などで必ずpH調整を行わなければなりません。
- 単独では“凝結”までしかできない
- PACは「凝結」を行う薬品のため、フロックを十分に成長させるには高分子凝集剤など他の薬品との併用が必要になります。
- 多薬品を使うほど、トラブル時に「どの薬品を、どの程度調整すべきか」の判断が難しくなります。
- 水質変動時の調整が難しい
- 排水の濃度や性状が日々変動する現場では、PACの添加量、中和剤の量、高分子凝集剤の種類・量など、いくつものパラメータを同時に調整する必要があります。
- 処理不良が起こった際の原因特定に時間がかかりやすく、経験やノウハウが求められます。
PAC導入の際は、これらのデメリットも踏まえたうえで、「薬品費だけでなく、運転管理のしやすさや人員体制まで含めたトータルコスト」を検討することが重要です。
5. PACの正しい使用方法
5-1. 保管方法

樹脂製タンクの写真
PACは酸性の液体で金属腐食性を持つため、保管時には次の点に注意します。
- 直射日光を避けた冷暗所に保管
- 高温環境や直射日光は、薬品の劣化や容器の耐久性に影響を与える場合があります。
- 耐酸性の容器・タンクを使用
- PVC(塩ビ)、PE(ポリエチレン)などの樹脂製タンクがよく用いられます。
- 金属タンクを使う場合は、ライニング等の防食対策が必要です。
- 他薬品との誤混合を防ぐ表示・レイアウト
- 次亜塩素酸ナトリウムなど“混ぜてはいけない薬品”とは、明確に区分して保管・配管することが重要です(詳細は後述)。
5-2. 基本的な投入方法
- 原則として原液のまま使用
- PACは希釈せずに、原液のまま使用します。
- 適正添加量を事前にジャーテストで確認
- 原水の性状(pH、SS濃度、COD/BOD、有機物量など)によって最適な添加量は大きく変わります。いきなり本設備で試すのではなく、小規模なジャーテストで「何mg/Lが最もフロック形成に適しているか」を確認してから本運用に移行するのが安全です。
- 入れすぎに注意
- PACを多く入れれば良いフロックができる、というわけではありません。過剰添加すると、逆に再分散したり、フロックが壊れたりして“凝集不良”を起こすことがあります。
5-3. 撹拌のポイント
- 投入直後は強めに撹拌
- PACを排水に均一に分散させるため、投入直後は撹拌機などでしっかり混ぜ、汚れと薬品をしっかり接触させることが重要です。
- フロック形成時は撹拌を弱める
- フロック形成時は撹拌を弱める基礎フロックが形成され始めたら、撹拌強度を落として大きなフロックへ育てます。初期と同じ強さで撹拌し続けると、せっかく大きくなったフロックが壊れてしまい、沈降性が悪化します。
- その後の中和・高分子凝集剤とのバランス
- 「PACで凝結 → アルカリ剤でpH調整 → 高分子凝集剤で凝集」という流れの中で、各工程の撹拌条件(時間・速度)を適切に設計することが、安定した処理の鍵となります。
6. PACを使った水処理フロー
PACを用いた典型的な排水処理工程は、概ね次のような流れです。
- 凝結工程:汚れにPACを投入し、微細な汚れを凝結させる。
- 中和工程:PACで酸性側に傾いたpHを、苛性ソーダや消石灰などのアルカリ剤で中和。最終的に放流基準内のpHに近づけつつ、後段薬品の効きやすい領域を狙います。
- 凝集工程:高分子凝集剤を投入し、フロックを大きく育てる。その後、沈殿槽や加圧浮上装置などで分離し、上澄み水を次工程へ送るか放流します。
PACだけでは水処理を完結できないため、複数の薬品・設備との組み合わせが前提になります。
特に、排水の性状が変動しやすい工場では、日々の運転状況をモニタリングしながら、「PAC・中和剤・高分子凝集剤」のバランスを微調整していく運用が重要です。
7. PAC処理後に発生する汚泥の管理
PACを使った排水処理では、汚れがフロックとして沈殿するため、必ず「汚泥」が発生します。この汚泥には、
- PAC由来のアルミニウム成分
- 排水中から除去された有機物・SS・油分
- 排水によっては金属成分や有害物質
などが含まれています。
7-1. 汚泥の処理フロー

フィルタープレスの写真
一般的な流れは次の通りです。
- 沈殿槽や汚泥槽から汚泥を引き抜く
- 脱水機(遠心分離機、スクリュープレスなど)で脱水
- 含水率を下げることで、体積・重量を減らし、運搬コストや処分費を抑える
- 産業廃棄物として適切に処理・処分
- 汚泥の性状(有害物含有の有無)に応じた処分方法を選択
汚泥中の水分が多いほど、体積・重量も増えるため産廃費用は大きくなります。そのため、脱水設備の性能や運転条件の最適化も、全体コストを抑えるうえで重要なポイントになります。
7-2. PAC添加量と汚泥量の関係

汚泥でいっぱいになっている写真
PACは比較的汚泥発生量を抑えやすい凝集剤ですが、当然ながら、PACの投入量が多くなればなるほど、汚泥の発生量も増加します。
薬品費だけでなく、汚泥の脱水・運搬・処分までを含めた「トータルコスト」を考えると、PACを必要最小限の適正量で運用することが非常に重要です。
また、汚泥を長期間溜め込んでしまうと、
- 腐敗による悪臭の問題
- 槽内の容量不足による処理能力低下
- 清掃・改修時の作業負担増大
といったトラブルにもつながります。定期的な引き抜きと計画的な処分スケジュールを組むことで、安定運用を実現しやすくなります。
【関連記事】汚泥の処理方法と処理費用について分かりやすく解説
8. PACを使用する際の重要な注意点
PACは扱いやすい凝集剤ではありますが、「安全」「水質管理」「他薬品との相性」の3点に特に注意が必要です。
8-1. 水質管理とpH調整
PACはpH4程度の酸性薬品であり、投入すると排水のpHを下げます。凝集処理がうまくいくかどうかは、「pH」が大きく影響します。
- 凝集に最適なpH帯から外れる
- 放流水のpHが基準値を外れてしまう
といったトラブルを防ぐために、次の点を徹底する必要があります。
- pHのモニタリング
- PAC投入前後、各工程、最終放流水など、必要なポイントでpHを測定します。
- pH計・自動中和装置を導入している場合でも、定期的な校正・点検が必須です。
- アルカリ剤による中和
- PAC投入後、苛性ソーダや消石灰などでpHを中和します。
- 「中和しすぎて逆に強アルカリ側へ偏る」こともあるため、制御方法(手動/自動)に応じてきめ細かい管理が求められます。
- PACの適正添加量の把握
- 添加量が少なすぎると凝結が不十分になり、フロックが小さく沈みにくくなる
- 多すぎると、再分散・過凝集による処理不良、薬品費・汚泥量増加につながりま
- これらを防ぐために、事前のビーカーテストおよび定期的な見直しが重要です。
- 水質変動への対応
- 工場生産ラインの稼働状況や洗浄工程の有無などにより、日ごと・時間ごとに排水性状が変わる場合、pH・SS濃度・有機物量の変動を想定した運転ルールが必要です。
- 一定のルールを決めつつも、現場での目視(フロックの大きさ、沈殿の様子、水の透明度など)を組み合わせて運用することが理想です。
【関連記事】pH調整が排水処理の鍵!排水基準や調整方法などをわかりやすく解説
8-2. PACに混ぜてはいけない薬品
PACを扱ううえで、特に注意しなければいけないのが「塩素系薬品」との混合です。
PACは酸性の液体であり、次亜塩素酸ナトリウムなど塩素系薬品と混合すると、有毒な塩素ガスが発生する危険があります。
これは家庭用洗剤でよく見かける「混ぜるな危険」と同じ原理で、排水処理場でも重大事故につながりかねません。
そのため、以下の点を徹底する必要があります。
- PACと塩素系薬品の非接触
- 保管場所を明確に分離する
- 配管・タンクを兼用しない
- 薬注ポンプや配管ラインがどこかで合流しないよう設計・確認する
- 洗浄作業時にも注意
- タンクや配管を洗浄する際、塩素系薬品で洗ったラインにPACが残っている、または逆の状況が無いか確認する
- 作業手順書の整備と教育
- 新人・応援要員が誤投入しないよう、ラベル表示や色分け、マニュアル整備、教育を行う
また、pH調整に使用する苛性ソーダ自体も、強アルカリで危険性の高い薬品です。薬品同士の反応性・危険性を十分理解せずに「とりあえず混ぜる」ということは絶対に避けなければなりません。
【関連記事】PACと苛性ソーダを混ぜるのはNG!混ぜてはいけない薬品も紹介
9. PACを使わない粉末凝集剤「アクアネイチャー」
PACは扱いやすい液体凝集剤ですが、前述のとおり、
- PAC(無機凝集剤)
- 中和剤(苛性ソーダ、消石灰など)
- 高分子凝集剤
といった複数薬品を組み合わせて使用するのが一般的です。
そのため、
- 薬品タンク・配管・薬注ポンプが多く、設備が複雑になる
- トラブル時にどの薬品が原因か切り分けが難しい
- 担当者のスキルや経験に処理品質が左右されやすい
といった課題があります。
そこでネクストリーでは、PACを使わない水処理薬品として、粉末一剤型凝集剤「アクアネイチャー」を提案しています。
9-1. アクアネイチャーの特徴

アクアネイチャーの写真
- 1種類の粉末薬品で「凝結・中和・凝集」まで完結
- 液体薬品のような複数タンク・配管が不要
- 「必要量を投入する」というシンプルな操作で使えるため、
- 担当者教育の負担軽減
- トラブル時の原因究明がしやすい
PACベースの多薬品処理から、一剤型に切り替えることで、運用のシンプル化・人員負荷の軽減を図ることが可能です。
現在の処理工程に課題を感じている場合は、「PACをやめる」という選択肢も検討する価値があります。
【処理動画】ビーカー試験:多用途型凝集剤「アクアネイチャープラス」(型番:PLS-ST01)
【製品ページ】多用途型凝集剤 アクアネイチャープラス
【導入事例】金属酸洗浄の排水処理設備更新、作業時間を50%削減!
10. 凝集処理でお困りなら専門家への相談を
PACは、多くの排水処理で高い効果を発揮する優秀な凝集剤です。
- 他の無機凝集剤より使いやすく
- コストパフォーマンスも高い
一方で、
- PAC単体では処理が完結せず、多薬品運用になりがち
- 処理不良時の原因究明・調整が難しい
- pH管理や薬品の相性を誤ると、安全面でもリスクがある
といった課題もあります。
「フロックが安定しない」「汚泥量や処理費用がかさんでいる」「トラブルの原因が特定できない」など、PACを使った凝集処理でお困りのことがあれば、ネクストリーまでぜひご相談ください。
現状の処理フローや排水性状、設備条件などを丁寧にヒアリングしたうえで、
- 無料の薬品試験・サンプル提供
- 現行PAC運用の最適化
- PAC以外の薬品への切り替え提案
- 汚泥処理・pH管理を含めたトータルな改善
など、お客様ごとの状況に応じた最適な処理方法をご提案いたします。