「減圧蒸留を活用した排水処理について知りたい!」とお考えではありませんか?
減圧蒸留は廃液を蒸留することで処理水と固形分に分離する物理的な処理方法です。
本記事では減圧蒸留について原理からメリット・デメリットまでわかりやすく解説しています。減圧蒸留と似たMVRという処理方法にも触れていますので、ぜひ最後までお読みください。
目的
減圧蒸留とは?

画像引用:株式会社サンアップ『真空蒸留装置(Rock-D)』
減圧蒸留とは、装置内の圧力を低くして行う蒸留のことです。そもそも蒸留とは混合物の成分の沸点の差を利用して分離する方法となります。
減圧蒸留は装置内の圧力を下げる(真空状態にする)ことで液体の沸点を大気圧(1気圧)よりも低くできます。気圧による水の沸点の変化は以下のとおりです。
- 1気圧→約100℃
- 0.5気圧→約80℃
- 0.1気圧→約45℃
常圧で行う蒸留では液体を約100℃まで加温する必要がありますが、0.1気圧の真空状態で行う減圧蒸留では約45℃で沸騰するため、蒸留スピードが早くなるというメカニズムです。
減圧蒸留を排水処理に応用したのが真空乾燥機です。装置内の圧力真空ポンプで低下させておき、ボイラーなどの熱源を使って廃液を加熱することで、蒸留水と汚泥や残渣に分けられます。真空乾燥機を使って95%以上の産業廃棄物低減を実現した例もあり、非常に効率的な処理方法です。
減圧蒸留のメリットとデメリット
〇メリット | △デメリット |
・水より沸点が高い物質を効率的に分離できる ・UF膜と同レベルの処理水が得られる | ・水よりも沸点が低いものは蒸留水に入ってしまう ・MVRと比較してボイラーなどの熱源を使用するためランニングコストが高額 ・ボイラーや真空ポンプが必要で装置が大きくなる |
上は排水処理における減圧蒸留についてメリットとデメリットをまとめた表です。
高濃度の油分が含まれるクーラント廃液など他の排水処理では対応が難しいものでも、減圧蒸留であれば排水処理が可能です。クーラント廃液は膜処理でも対応できますが、すぐに膜が詰まってしまうため、多量の排水処理には適していません。クーラント廃液の処理方法については以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
参考:アルミダイカストなどの切削で出るクーラント廃液の処理方法を解説
UF膜と同レベルの処理水が得られる一方で、ボイラーや真空ポンプなど専用の設備が必要となるため、装置が大型でランニングコストが高くなるのがデメリットです。後述するMVRという方法で対応できる処理であれば、ランニングコストを減圧蒸留の約1/10まで抑えられる可能性もあります。
減圧蒸留を活用した排水処理の特徴
減圧蒸留を活用した排水処理の特徴は大きく以下の2つです。
- 汚泥の含水率が低くなる
- 凝集沈殿法や生物処理で困難な物質でも対応できる
それぞれの特徴を少し掘り下げて確認しましょう。
汚泥の含水率が低くなる
減圧蒸留の処理後に発生する汚泥は、低温で水分が蒸発するため含水率が低くなるのが特徴です。蒸発した水分は冷却後に処理水となり、排水基準を満たしていればそのまま社外に排水できます。
処理後の汚泥は水分が大幅に削減されて固形分が濃縮された状態になるため、体積が小さく、産業廃棄物の処理コストを圧縮できます。
凝集沈殿法や生物処理で処理な困難な物質でも対応できる
アルミダイカストの切削などで発生するクーラント廃液には油分や金属の切粉や粒子、有機成分が多く含まれます。他の排水と比べて油分が非常に多いため、凝集沈殿法では処理が難しく、生物処理でも微生物への負荷が高すぎて対応できません。
減圧蒸留であれば、凝集沈殿法や生物処理で排水処理が難しい物質でも濃縮廃液と蒸留水に分離可能です。
MVR(機械式蒸気再圧縮)とは?
減圧蒸留 | MVR | |
基本原理 | 装置内の圧力を低下させて液体の沸点を下げる | 蒸気を圧縮した熱を再利用する |
熱源 | ボイラーが必要 | サポートヒーターのみ(ボイラーは不要) |
エネルギー効率 | 標準(ボイラーの能力に依存) | 非常に高い |
ランニングコスト | MVRよりも高額 | 減圧蒸留の約1/10 |
廃液の濃縮率 | 約95% | 約80% |
減圧蒸留とよく似たシステムにMVR(機械式蒸気再圧縮)という方法があります。廃液の蒸気を圧縮することで高温にして、熱交換器を介して再利用する方法であり、非常に効率よく廃液を加熱できます。
減圧蒸留のように廃液を加熱するためのボイラーが必要ないため、重油やガスなどの燃料が不要です。そのため、ランニングコストや温室効果ガスを大幅に削減できます。
クーラント廃液をMVRで処理した事例

画像引用:株式会社サンアップ『排水減容化装置(Rock-Es)』
凝集沈殿法や生物処理で対応が難しいクーラント廃液は、MVRで処理が可能です。
1ヶ月あたり100m3のクーラント廃液を排出していたメーカーで、MVRによる処理を導入したところ、産業廃棄物の量と処理費用が約90%削減された事例もあります。コストダウンできた金額は年間で1,500万円以上にもなり、非常にインパクトの大きい事例です。
処理できるのであればMVRがおすすめ
減圧蒸留とMVRはどちらも蒸留という分離技術を活かして排水処理を行います。もしどちらの処理でも対応できるのであれば、ボイラーレスながら高効率で処理が可能なMVRがおすすめです。ランニングコストを抑えて効率よく廃液の処理ができます。
減圧蒸留やMVRが気になる方はミズサポまでお問い合わせください。お客様の現状をヒアリングして、最適な対応メーカーや設備をご紹介いたします。